友よ山河を亡ぼすなかれ 

友よ山河を亡ぼすなかれ
著者 野村秋介
発行 二十一世紀書院
定価 2,000円(税込み)

初版は昭和53年に発行されたが、本書は一昨年開催された、野村秋介追悼30周年を記念した「群青忌」の機会に再発行された復刻版である。ワシの写真は本書でなく、群青忌の際に本書とともに配られた告知パンフレットに使用されたモロッコのカサブランカで撮影された作品である。この時すでに著者はご自身の運命を決めていたかのような焦りが見え、突如、「ここで撮ろう」「あれをバックに撮ってみよう」と言い出していた。夜中であろうと、物騒なカスバであろうと。
このときもカサブランカのご自身の宿泊していたホテルの自室に呼ばれ、自室から見えるハッサン2世モスクを背景に撮るよう言われたんやが、まあ大変、自室より圧倒的に明るい外はガラスの反射も気にならないんやが、露出差がすごい。
ただでさえ、ピーカンの砂漠の町である。エアコンの効いた室内との差は4絞り以上、いやもっとか。ちなみにワシらは明るさをF値、絞り値やシャッター速度やISO感度で、距離や光学機器の倍率をレンズの焦点距離で表す。ましてや当時はフィルム、しかもラチチュードのせまいポジフィルム。で、いろいろ試しましたがな。アンブレラにレフ板と出来は帰国後、現像してみるまで分らんかったが、結果、撮ったワシはこのシーンはまだ不自然な感が否めず、まあ野村氏の顔の反射が気になったんやろうと、あえてこのシーンアはセレクトせんかったんやが、野村氏本人がポジ全部に目を通したのち、セレクトしたのが、このカットであった。映画のプロデューサーも務めたこともある野村氏は俳句や短歌などの文学的センスにも加え、映像クリエイトや写真の才能にも恵まれていた。それにしても暑かったなあ。なお本書の中で特に興味深かったのは、日本赤軍の脅しに屈し時の日本政府が超法規的措置として中東に持参金付きでテロリストを解き放ったうちの1人、泉水博に触れたところであった。泉水はその20年後、整形手術の跡が生々しい姿でマニラで逮捕され、日本に送還されたが、いまだ日本赤軍の板東国男らは見つかっていない。