正論 2月号

正論 2月号
■発行産経新聞社
■定価780円(税込み)

今回の連載はヒヤヒヤもんやった。締め切りギリギリの入稿・・・・ということやなくて、撮れるかどうか、いやアカン、という状況やった。東京の拙宅で第一報をテレビニュースで知ったのは、同じ秋田でもここ男鹿半島から70キロ南の由利本荘港に漂着したこれまた同じく北朝鮮からのイカ釣り漁船がマリーナにあいつらいわく、偶然漂着したその映像を見て直感し、「これはワシが撮ったら絵になる、仕事になる」そのまま羽田に直行した。この時期の秋田がどれほど寒いかも考えずに。秋田空港に降り立ってすぐ後悔した。東京での仕事が背広やったが、その下にウールの亀首セーター、手袋は2枚がさね、極寒用なのはワシの車に積みっぱなしやったダブダブドカズボンと神戸大丸で調達したコヨーテのボアと耳あてつきのフライト帽子だけやった。空港から町までけっこうな下り坂、それがドカ雪積もってツルツル。空港から直接由利本荘に行く予定が、レンタカー屋のねえちゃんに「本荘までの海沿いの道は豪雪、豪雨で危ない、私なら絶対行かない、ましては夜は」とさんざんびびらされ、とりあえず本荘と反対側の秋田市内泊に決めた・・・これが大失敗。ワシより一本前の便で秋田入りしてた新潮のNカメラマンとは翌早朝、現場の由利本荘マリーナで当然遭遇したが、Nカメラマンは一本前の便でそのまま本荘泊りにして、レンタカーで本荘着いたときはぎりぎり陽はあり、マリーナでプカプカしてるイカ釣り漁船が撮影でけたらしいのである。かわってこの日の早朝陽が昇ってもイカ釣り漁船がさっぱり見えんのである。嵐の中の木の葉みたいに、荒波にもまれて沈没寸前の漁船はこの漁船が来た国と同じく運命をたどる・・・なんて、突っ込みどころ満載の記事もあげれると踏んでいたのに、その姿が見えんのである。どうやらどっかにまた漂流はじめたか、沈んだかという。沈んだもんは、もう撮りようがない、とほほほであった。それにしても乗ってきた8人の自称北朝鮮の漁師、じつは工作員の可能性もあるあやしいやつが実質、密入国の不法上陸したというのに、現場検証もせずに沈めるかあ?おかしいやん、沈んだんやなしに沈めたんが正しいと勘繰るのは当然やん。そんな現場検証も済んでないのに、こうなったら、その漁船引き上げるまでねばろうと、3日ねばったものの漁船はバラバラになって沈没したみたいで、引きあがるのはこまいもんばっか。こうなったらいっそのこと怪しい8人の自称北朝鮮の漁師が出てくるのを待つかいなと企むものの、秋田県警はそんな怪しい8人を囲い込んで一切見せようとせんし・・・締め切り迫ってくるし・・・とそんなとき本荘から70キロ北に行った男鹿半島にまた北朝鮮からの漁船が漂着しという一報が本荘まで届き、翌早朝周囲から「よせばええのに、朝も早よからようやるで」と聞こえてはこんが、東京の編集部からは「悪あがき」と思われても、駆けつけて、今度は海水浴場のビーチにドーンと打ちあがった漁船がばっちし、すでに海保と秋田県警の目が光っていたが、まさか中に8人もの仏が眠っていたとは知らなんだ。夜明け前、海保が来るまえに漁船の中にはいって写真撮ろうなんてしてたら、悲鳴上げたやろなって、それから次々運び出される8人の遺体の死臭だけでかなりきつかったから、まあ気づくか・・・